スポット市場価格連動型DR自動制御の実効性分析
省エネ法改正に対応する需要最適化(DR)システムの比較と経営戦略への影響を解説します。
省エネ法改正とDRの重要性
2023年4月の省エネ法制度改正により、電気の需要の最適化(DR)が正式に評価項目として加わりました。2026年7月末に提出される2025年度の定期報告では、DR実施実績が経営的にも法的にも重視される見通しです。
特に「上げDR」(市場価格が極端に安価な時間帯に電力を敢えて使用することで市場安定化に貢献)が注目されています。容量拠出金制度の導入(2024年度以降)により市場構造が変化し、高価格帯の発生が減少しているためです。
省エネ法におけるDR報告項目
第2表1-3
DRを実施した日数(必須項目)
第2表1-4
最大供給容量・年間DR量(任意項目)
第2表1-5
活用設備の種類(任意項目)
JEPXスポット市場は前日午前10時に入札を締切り、10:15〜12:30ごろに翌日の30分単価が確定・会員向けに通知されます。これにより、DRシステムは前日中に翌日の制御スケジュールを確定できます。
国提供「DR支援ツール」の機能
国が提供するExcelベースの支援ツールは、省エネ法で報告が必要なDR量を自動算出します:
  • ベースライン手法:High 4 of 5またはHigh 2 of 3
  • ベースラインと実際の使用量の差により、「削減量」あるいは「増加量(上げDR)」を算出
  • 最大供給容量(kW)も併せて算出
例えば上げDRの場合、ベースライン(115kWh)に対し実際の使用量が135kWhであれば、増加量20kWhが実施量として評価されます。
計算サポートツール 令和7年度定期報告用
ベースライン計算方法と実務上の課題
1
High 4 of 5方式
過去5営業日のうち、各30分単位の使用量が多い4日を選び平均します。
2
High 2 of 3方式
過去3日から使用量が多い2日を選び平均します。
3
実務上の課題
介護施設や病院など、営業日・非営業日の区別がない施設では「過去5営業日」という定義が合わないケースが多いです。
実務上は「類似日(平常日)」という考え方を用います。例えばDR当日が金曜日であれば、過去5週間の金曜日から使用量の多い4日を選ぶなど、施設実態に即したベースライン設定が可能です。
スポット市場価格連動型DR自動制御の提案モデル
価格取得
JEPX(日本卸電力取引所)から前日に30分単価を取得(10:30頃)
スケジュール生成
単価に応じたルール(例:0.01円→上げ、80円→下げ)に従い、翌日の制御スケジュールを生成
自動制御
EMS(Energy Management System)やPLC(Programmable Logic Controller)にスケジュールを送信し、設備(空調、照明、蓄電池など)を自動制御
実績記録
実績ログ(30分単位)を保存
両システムの比較分析
国提供のDR支援ツールは省エネ法報告に必要な「最低限の定量評価」を補助するものですが、スポット市場価格連動型DR自動制御システムは実運用・経済性・ESG報告までをカバーする総合的な戦略ツールです。
※ESG報告とは、企業の環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3つの側面に焦点を当てた評価と報告のことです。
経営判断における結論と提言
上げDRの戦略的重要性
容量拠出金制度の影響により高価格帯の発生(下げDR対象)が実質的に消失している現状では、上げDRを主体とした戦略的DR運用が最も現実的かつ実効的です。
柔軟なベースライン設定
介護施設や医療機関など営業日区分が曖昧な事業者でも、「施設運用上の平常日」または「同曜日比較」などによりベースラインを柔軟に設定可能です。
早期自動制御体制の構築
2026年の省エネ法定期報告では、DR成果の定量的・戦略的活用が企業価値向上に資することを経営層が理解し、早期に自動制御体制を構築すべきです。
今後は、ベースライン算定方式の現場最適化と、制御・報告・評価が一体化したDR管理基盤の導入が、競争優位性の鍵となります。